MY ISSUE / 012

本来の姿を
社会に反射させたい

大平稔 リテールディレクター

2000年、アパレルメーカー小売のトゥモローランドに新卒入社。24年間にわたり、店舗運営、レディース・メンズ商品部、リテール百貨店営業、フランチャイズ部など、アパレル小売業の幅広い業務を経験。2024年10月、へラルボニーへ入社。リテールディレクターとして、プロダクト開発や実店舗運営を担当している。

アパレル一筋25年のキャリアを経て、へラルボニーでの新たな挑戦をスタートさせた大平稔。

「いいものはいい」「美しいものは美しい」という揺るぎない美意識と、長年の小売業経験を武器に、異彩を放つ作家のアートをより日常へ取り入れるための可能性を追求している。その取り組みは、プロダクト開発からマーチャンダイジング(MD)、実店舗スタッフの教育まで幅広い。

アパレル業界の第一線でキャリアを歩み続ける選択をやめ、なぜへラルボニーに参画したのか。キャリアの考え方、自身の原体験について聞いた。

25年のアパレル経験から得た「本物」

へラルボニーでの現在の役割について教えてください。

前職での経験を活かし、主にプロダクトと実店舗に関わる業務を担当しています。具体的なミッションは、異彩を放つ作家の原画を取り入れた商品である「モノ」と、実店舗やECサイトといった提供環境である「ウツワ」のクオリティをともに高め、売上の向上へつなげること。これまで店頭運営や営業、商品開発、MD、店舗開発、出店戦略など、さまざまな業務を経験してきたので、それをフル活用しているイメージですね。

セレクトショップに長年携わっていたこともあり、世界中の「本物」を見てきたことで、初めて出会うものでも、その価値を直感的に理解できる目が培われたと思っています。

へラルボニーにも同じような感覚がありましたか。

へラルボニーが手がけたハンカチを初めて手に取った時も、まさに同じ感覚でした。八重樫季良さんの「(無題)(家)」という作品と、小林覚さんの「数字」という作品のハンカチを購入したことを、今でも鮮明に覚えています。「これは間違いなく本物だ」と感じました。

私にとって「本物」とは、補足説明する余地のないもの。見たり触れたりする瞬間に圧倒される感覚。これこそが、私が25年間で積み上げてきた、最も大切な価値観かもしれません。アート作品から感じる直感的な美しさを、さまざまなプロダクトを通じて世の中に届けていく。そこには作家や商品から映し出す「本物」という考え方が重要だと考えています。

へラルボニーにはリスクを負う価値があった

25年間のキャリアを経て、新たな挑戦を決意した理由を教えてください。

へラルボニーとの出会いは、前職の後輩を通じてでした。その後輩が運営する盛岡のセレクトショップで文登さん(代表取締役Co-CEO)と知り合い、へラルボニー(当時、前身であるMUKU)の存在を知ることになります。

また、前職時代にへラルボニーとポップアップストアをご一緒する機会があり、そこからお付き合いがより深くなっていきました。リテールやプロダクトの強化に関する相談を受け、何度かミーティングに参加するようになったんです。転職の意思を固めたのは、2024年1月のことでした。

意志を固めることになった背景を知りたいです。

「HERALBONY Art Prize」のプレス発表後、松田兄弟が揃って私に会いに来てくれたんです。彼らは高揚した表情でへラルボニーの未来を語りながら、改めて正式な参画を誘ってくれました。

それまでも何度かお誘いはいただいていましたが、前職への思い入れも強く、すぐには決断できずにいました。でも、松田兄弟と、当時のリテールシニアマネージャーである小森さんが、アパレル畑一筋だった私をヘラルボニーという場所で必要としてくださることに、驚きとともに嬉しさを感じて。

アパレルメーカーから障害福祉のスタートアップへの転身について、大平さん自身どのように捉えていますか。

実は私には年の離れた姉がいて、生まれつき脳性小児麻痺という障害がありました。数年前に他界しましたが、人生のほとんどを福祉施設で過ごしていて、私も年に数回会う程度でしたが、障害というものをことを必ずしもポジティブには捉えられていなかったのも事実で…。

ただ、ヘラルボニーのみなさんは違った。障害に対する向き合い方がとてもポジティブで、エネルギーに溢れていたんです。ここには私がこれまで姉に抱いていた気持ちとは違う何かがある。言葉にできないような可能性を感じて、最後はジョインすることを決意しました。

また、勤続25年も過ぎると、残りの社会人としての時間をどこへコミットしようかと考えるんですよ。おそらく残された時間は13年ほど。そう考えたら、ヘラルボニーはその一歩を踏み出すリスクを負うだけの価値ある会社だと胸を張って言える。そう感じたのも、転職を決めるうえで大きかったですね。

店舗をへラルボニーを表現する場へ

へラルボニーでのリテール部門について教えてください。

私たちは原画の持つ力を、より多くの人々の日常に届けたいと考えています。

そのためには、美しい「プロダクト」と、それを提供する「場」の両方が重要です。特にこれから力を入れていきたいのが「場」です。たとえば、(実店舗に)作家が毎週来て絵を描くような店があってもいいし、作家とお客さまがフラットに交流できる空間があってもいい。作家の制作風景や作家自身の魅力を通じて、原画の価値をより高められるようなアクションをリテールチームからどんどん仕掛けていきたいですね。

一方、課題はありますか。

もちろん。ただ課題というよりも、十分に手が回っていなかった部分を改善していくイメージに近いですね。正直なところ、まだまだ原画の魅力を最大限に活かしきれていないプロダクトがあるのも現状です。それにより、品質とプライス(価格)のバランスも、改善の余地がある。これについては、ここ数ヶ月で方針が固まってきたので、2025年以降から少しずつ改善していくと思います。

異彩を放つ作家が持つ「本物」の魅力や美しさを、最大限に表現できるプロダクトは何か。それを購入体験として提供する店舗と、届ける「ヒト」(スタッフ)のあり方とは何か。これからさらに磨きあげ、よくしていきます。

相対ではなく、本来あるべき姿に目を向ける

へラルボニーで実現したい目標について教えてください。

お客さまから教わった言葉があります。「エレガンスに最も近い日本語は『いただきます』と『ごちそうさま』だ」と。

単に高価な靴を履いているからエレガンスなのではなく、その靴に込められた経緯やリスペクト、そして大切に磨いていこうとする姿勢こそが「エレガンス」なのだという教えでした。へラルボニーが大切にする「誠実謙虚」という言葉にも、近しい精神を感じます。

最近、障害者権利条約について社会福祉法人きょうされんの藤井さんから教わったことがあります。障害者権利条約では「〜よりマシ」を良しとしない。つまり「本来あるべき姿」を追求する、ということでした。

へラルボニーが目指すのは、作品の価値を正当に評価し、相応の対価を支払うこと。それは「障害者の作品なのに良い」ではなく、「作家・作品として本来受けるべき評価」を実現することだと思うんです。

障害がある、ないを問わず、そのヒト、その作品を見つめるということですね。

そうです。本来人間が持つ美しさや表現行為をそのままへラルボニーが受け皿となり、あらゆるタッチポイントを通じて世の中へ届けていく。それが自分に託された役割じゃないかなと。冒頭で触れた「本物」と「本来あるべき姿」は、もしかしたら似ている考えなのかもしれないですね。

これからもこの軸を大切に、異彩を放つ作家をサポートをしていきます。

大平稔 リテールディレクター

2000年、アパレルメーカー小売のトゥモローランドに新卒入社。24年間にわたり、店舗運営、レディース・メンズ商品部、リテール百貨店営業、フランチャイズ部など、アパレル小売業の幅広い業務を経験。2024年10月、へラルボニーへ入社。リテールディレクターとして、プロダクト開発や実店舗運営を担当している。

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へラルボニーのメンバーは、多様なイシューを持ち日々の仕事に向き合っています。一人ひとりの原体験や意志は、社会を前進させるポジティブな原動力に変わります。