MY ISSUE / 010

作家の絵筆を
法で支えたい

玄唯真 法務責任者

中央大学法学部卒業後、司法試験に合格。西村あさひ法律事務所・外国法共同事業で8年間勤務し、主にファイナンス、特に不動産流動化や再生可能エネルギー発電事業に関するプロジェクトファイナンス、FinTech案件を担当。在籍中にニューヨーク大学ロースクールに留学し、ニューヨーク州司法試験合格。さらにエディンバラ大学ビジネススクールで国際戦略論とサステナビリティの修士号取得、英国司法試験にも合格。帰国後は伝統的なファイナンス業務に加え、ESG投資、インパクト投資、スタートアップ支援業務に従事。その過程でヘラルボニーと出会い、法務アドバイザーとして関わる。法律とビジネスの両面から社会課題解決に取り組む。

ヘラルボニーの法務責任者として活躍する玄唯真は、弁護士としての経験を活かし、会社全体の法務体制の構築に取り組んでいる。在日コリアンである原体験から、社会正義と法の力に強い関心を持っていた彼は、ヘラルボニーのビジネスモデルに「資本主義を活用した社会課題解決」の可能性を見出した。

法の理念とヘラルボニーの活動の結びつきを社内に浸透させ、「作家ファースト」の理念を守りつつも、資本主義と融合させる方法を模索している。玄が目指すのは、法務の力で会社を成長させ、社会に価値を提供する好循環の創出だ。

法律事務所で経験できる仕事とは
異なる挑戦でした

へラルボニーにおける仕事内容やミッションを教えてください。

玄:現在は法務全般を担当しています。特に重要な業務としては作家、福祉施設とのライセンス契約の検討があります。また、株主総会や取締役会の運営など、会社の機関運営に関する業務も担っています。最近では、フランスへの進出に伴い、海外ビジネスに関する法務戦略立案にも対応しています。ヘラルボニーでは、アカウント、EC、リテール、広報といった、すべての部門にリーガルの問題が関わってきます。社内の法務として全体像を把握し、各案件の優先順位や担当者の振り分けを考えながら、システマティックに業務を構築していく仕事は、クライアントワークがメインとなる法律事務所とは異なる挑戦といえますね。

ヘラルボニーを知ったきっかけは何だったのでしょうか。

玄:きっかけは「歴史を面白く学ぶコテンラジオ」というコンセプトのCOTEN RADIOにヘラルボニーの松田両代表が出演していたことでした。直感的にヘラルボニーのビジネスモデルは「天才的だ」と感じたんです。多くのソーシャルビジネスでは、経済的利益と社会的利益の間にトレードオフが生じがちです。しかし、ヘラルボニーの場合、自社プロダクトが売れれば売れるほど社会的利益も増進するという、美しい相関関係が成り立ちます。資本主義をレバレッジにして社会課題を解決するという、そのビジネスモデルの美しさに感銘を受けました。

一方で、ヘラルボニーのビジネスモデルは複雑なところもあり、全体像を把握し管理する人材が必要不可欠だとも感じました。そこに私が貢献できると考えたのも入社を決意した理由の一つです。

ニューヨークで掛けられた、
ホームレスからの言葉

玄さんが社会課題について考えるようになった、原体験があれば教えてください。

玄:私の原体験として欠かせないのは、在日コリアンとしての経験です。特に父は強い差別を受けた世代であり、私自身も友人の差別経験やネット上のヘイトスピーチを目にしてきました。「正しさとは」「平等とは」「差別とは」といった根本的な問いに、自然と興味を持つようになったんです。父も同様だったようで、実家の書棚には多くの哲学書が並んでいたのを覚えています。中高生時代に父から聞かされた哲学談義も、当時は面倒くさく感じることはありましたが(笑)、今思えば私の価値観形成に大きな影響を与えています。

それからもう一つ、ニューヨーク留学中の経験があります。町中にはホームレスの姿も多く、彼らに物乞いを受けるたびに、次第に邪険に思う自分がいたんです。大学院の卒業式の日、アカデミックガウンを着てヤンキースタジアムに向かう途中、いつものように顔を合わせるホームレスの方がいました。

いつものように物乞いを受けると思っていたら、私に「コングラチュレーションズ」とお祝いの声をかけてくれたんです。お金は求めず、純粋に私の卒業を祝福してくれました。「その方は私を一人の人間として尊重してくれた」と気付いたとき、留学中で最も忘れられない経験となりました。

私自身、在日コリアンとして差別を受けた経験があり、マイノリティの気持ちがわかっているはずでした。法律の勉強で個人の平等や尊厳について学んでいたにもかかわらず、そういった扱いをしてしまっていた自分に、深い恥ずかしさを覚えたんです。

そのような原体験が、ヘラルボニーにつながっているんですね。

玄:そうですね。ヘラルボニーのプロダクトを身につけると、いつも「一歩立ち止まって考えるきっかけ」をつくってくれます。作家の顔やストーリーがふと頭に思い浮かぶんです。それは一種のお守りのような役割を果たし、自分の襟を正してくれる。

このようなプロダクトを社会に広めることで、無意識に差別意識を持ってしまうことを自覚させるきっかけをつくり出すのではないでしょうか。これはECやリテールの小物やアクセサリーだけでなく、企業とのコラボレーションを通じても同じ効果があると思います。障害者に対するイメージを変えるだけでなく、目の前の人を敬う、個人を尊重するという意識を高めるきっかけになるわけです。

人類が築いてきた理念とヘラルボニーが
強く結ばれる事実を証明したい

今後、ヘラルボニーでどのようなことに挑戦したいですか。

玄:まず、社員のみなさんに法の楽しさを理解してもらいたいと考えています。単にリーガルリスクを理解するだけではなく、ビジネスの提案においても、法律の考え方が非常に有用だと思うからです。

特に憲法や民法などの基礎的な法の理念的な部分を理解すると、ヘラルボニーの活動がなぜ人々の共感を呼ぶのか、なぜそれが正しいと思われるのかという根拠が明確になります。たとえば、個人の尊重や平等といった憲法の理念とヘラルボニーの活動が強く結びついていることを理解すれば、より自信を持って提案できるようになるはず。

ヘラルボニーは株式上場を目指すフェーズもあるはずですが、そのビジネスモデルは比較的資本主義と相性が良い一方で、矛盾する部分も理解しなくてはなりません。例えば、作家へのライセンスフィーを下げれば、ヘラルボニーの利益率が上がるという単純な構図があります。しかし、「作家ファースト」という理念は絶対に曲げてはいけず、資本主義に完全に飲み込まれることを防ぐ必要があります。

ここで重要なのは、この理念を曲げずに資本主義とどう融合させていくか、あるいは資本主義の考え方自体を変えていく必要があるのかという点です。現状の資本主義の考え方とマッチしているのかどうか、その理論付けを行うことが私の役割の一つだと考えています。

今のへラルボニーにジョインする醍醐味でもありますね。

玄:そうですね。このフェーズのスタートアップに参加し、組織をゼロからつくり上げていく経験は、私の今後の人生にとって大きな財産になると確信しています。ビジネスパーソンとしても、弁護士としても、非常に良いチャンス。

そして、ヘラルボニーの法務責任者として会社の成長に貢献し、法務の重要性を示すことができれば、他のスタートアップや企業にも良い影響を与えられるはず。法務の力で会社を成長させ、社会に価値を提供するという好循環をつくり出したいですね。

玄唯真 法務責任者

中央大学法学部卒業後、司法試験に合格。西村あさひ法律事務所・外国法共同事業で8年間勤務し、主にファイナンス、特に不動産流動化や再生可能エネルギー発電事業に関するプロジェクトファイナンス、FinTech案件を担当。在籍中にニューヨーク大学ロースクールに留学し、ニューヨーク州司法試験合格。さらにエディンバラ大学ビジネススクールで国際戦略論とサステナビリティの修士号取得、英国司法試験にも合格。帰国後は伝統的なファイナンス業務に加え、ESG投資、インパクト投資、スタートアップ支援業務に従事。その過程でヘラルボニーと出会い、法務アドバイザーとして関わる。法律とビジネスの両面から社会課題解決に取り組む。

MY ISSUE

へラルボニーのメンバーは、多様なイシューを持ち日々の仕事に向き合っています。一人ひとりの原体験や意志は、社会を前進させるポジティブな原動力に変わります。