経営企画室ウェルフェアチーム。コンテンツ開発と障害者雇用推進を主に担当。ろう者。東京学芸大学特別支援教育専攻科を修了後、児童指導員として10年間勤務の傍ら、一般社団法人異言語Lab.を立ち上げ、代表理事を務める。異言語脱出ゲーム開発者。コンテンツクリエイター。謎制作とコンテンツ提供を主に、ろう者・難聴者が主体的に取り組めるチームづくりを意識している。これまでの異言語Lab.での経験を踏まえ、さらに障害のイメージを変えたいという想いを胸にヘラルボニーへ入社。主に企業向けの研修プログラムの開発を担当し、その責任者を務める。
2023年、新設されたウェルフェアチームは障害のある方の活躍の場を広げることをミッションに新規事業開発を担っている。同チーム立ち上げのタイミングでヘラルボニーに参画し、Diversity&Inclusionを推進する研修コンテンツを開発し、リードするのが菊永ふみだ。
菊永はヘラルボニー以外にも、自らが代表を務める一般社団法人「異言語Lab.」と二足のわらじを履きながら活動している。ろう者でもある菊永が目指すのは、「障害のある人たちが障害を理由に、進みたい道を諦めることのない社会」の実現だ。立ち上げから一年が経過した新規事業への手応え、今後達成したいミッションについて聞いた。
「障害があるからこその強み」だってあり得る
へラルボニーにおける仕事内容やミッションを教えてください。
菊永:私が所属しているウェルフェアチームは2023年に立ち上げられた、ヘラルボニーのなかでも新しいチームです。私は主に、さまざまな企業でDiversity&Inclusionを推進する研修コンテンツ制作を担当しています。これまで、延べ1,000人以上の方にプログラムを受けていただきました。ひとりひとりの違いを掛け合わせることで大きなパワーになる、そんなヘラルボニーの思想を伝えていく仕事だと認識しています。
これまでDiversity&Inclusionプログラムを実施してきたなかで感じている手応えを教えてください。
菊永:やっぱりプログラムが体験型であることがポイントだと思います。セッションは、見えにくい、聞こえにくい、話せないーーさまざまなマイノリティの立場や世界を体験をすることで、一人ひとりが無意識の特権について体感的に考えるきっかけを得るプログラムです。
私が感動したのは、参加者自らが「見えにくい、聞こえにくい、話せない立場だからこそ、できることがあること」を見出した瞬間です。たとえば、見えにくい立場だからこそ、細やかに文字やイラストが書かれているゲームには参加できないけれど、全員の様子を注意深く観察し、情報を整理する司令塔になった方がいました。そのチームは彼の指示のお陰でパフォーマンス力があがり、課題解決に導きました。
ここから得られる示唆は、「障害のある人は、助けてあげなければいけない存在」なのではなく、「障害があるからこその強み」だってあり得るということ。さらにいえば、障害のあるなしにかかわらず、その人が本来持っている強みを見つけ、最大限発揮することでチームのパフォーマンスが劇的に変わるということです。Diversity&Inclusionプログラムを通じ、こうしたシーンを目撃したとき、自分たちの活動のポテンシャルを肌に感じました。
もちろん、現状のプログラムにはまだ満足していません。これからもどんどんアップデートしていくつもりです。
“異彩”と“異彩”をつなげるー好きー
「異言語Lab.」と二足のわらじ
ヘラルボニーに入社する前は、どんな活動をされていたんですか。
菊永:元々、10年間ほど福祉型障害児入所施設で働いていました。主に聴覚障害があり、さまざまな境遇にある子どもたちと寝食を共にする日々を過ごすなか、趣味の一環で「異言語脱出ゲーム」というものが生まれ、2018年に「異言語Lab.」という一般社団法人を立ち上げたんです。これらの活動については、ヘラルボニー入社時に「理不尽な社会、私の闘い方」というnoteに詳しく書きました。
初めての出会いから5年が経ち、2023年5月ヘラルボニーに入社した理由は何ですか。
菊永:実は「異言語Lab.」のためでもあります。ヘラルボニーは「異彩を、放て。」をミッションに掲げて障害のイメージ変容と新たな文化の創出を目指していますが、そのなかには「異言語Lab.」の存在も含まれていると考えました。「異言語Lab.」のミッションである「異(ことなる)を楽しむ世界」の根底は、ヘラルボニーのミッションと深くつながっているのではないか、と。
お互い協力しながら、高め合う結果、”異彩” と ”異彩” がつながっていく。自分の立ち位置としては、どちらも向上させることで、社会を変えていければと考えています。
関わり合い、混ざり合い、
笑い合う。開かれた場づくりへの挑戦
へラルボニーによって社会をどうポジティブに変えたいですか。
菊永:障害のある人たちが、障害を理由に自分が進みたい道へ進むことを諦めることのない社会をつくっていきたいです。そのためには、障害のある人が主体的に耕す場をつくる、また障害のある人との出会いの場をつくることで、社会全体の意識や態度を変えていく必要があると考えています。たとえば、電車のなかで「わー、わー、わー」と喚いている方がいらっしゃるとき、多くの場合は迷惑がられて終わるわけです。でも、それが別に目くじらを立てられることではなく、当たり前の風景として認められてもいいのではないか。もしかしたら、その喚きはその人が内に抱える何か大切なメッセージを発しているのかもしれない。これは一例ですが、障害のある人たちへの社会のまなざしも変わることで、障害のある人や彼らの周りにいる家族にとっても、障害のない人にとっても生きやすい社会になると思うんですよね。
最後に、菊永さんが果たしたい夢、目標を教えてください。
菊永:ろう者である私の個人ミッションは、障害のある方の“本質的な”活躍の場を広げること。あえて“本質的”と言っているのは、障害のある方が自分の意思で「Aなのか、Bなのか、Cなのか」を判断し、その決定に責任を持つことを指しているからです。
マジョリティによるマイノリティへの圧力は無意識であることがほとんどです。多くの場合、障害のある人はマジョリティが決めたルール、やり方に従うだけの存在として規定されている。だから「できない」「助けてあげなければならない」が強く出てしまう。そうではなく、そのプロセスの段階から自分のやり方で、自ら情報収集を行い、多様な人と議論し、最後は自らの頭で考えて決めて手を動かしていく。そうすると、自然と責任が伴っていくのだと思います。
私は耳が聞こえない障害当事者として、数えきれないほどの悔しい思いをしています。言語が異なることで得られる情報が少なく、判断ができない・思うように表現できない・任せてもらえない状況が日常茶飯事です。障害のある人が自己肯定感を上げていくには、私のやり方で、あなたのやり方で、彼らのやり方で、主体的に考え、耕す環境を作ることが重要です。もちろん、自分だけで耕すのではなく、周囲を巻き込んでいくことで、より大きなパワーを生み出す、それは社会の変革になると考えています。へラルボニーや異言語Lab.の活動は、まさに障害福祉を変革するための方法と言ってもよいでしょう。あらゆる人々が関わり合い、混ざり合い、笑い合い、お互いの意思を確認する。そんな開かれた場のなかで芽生えるわずかな視点や感性が、障害というバリアをなくす一歩になる。そう信じて、これからも活動を続けていきます。
経営企画室ウェルフェアチーム。コンテンツ開発と障害者雇用推進を主に担当。ろう者。東京学芸大学特別支援教育専攻科を修了後、児童指導員として10年間勤務の傍ら、一般社団法人異言語Lab.を立ち上げ、代表理事を務める。異言語脱出ゲーム開発者。コンテンツクリエイター。謎制作とコンテンツ提供を主に、ろう者・難聴者が主体的に取り組めるチームづくりを意識している。これまでの異言語Lab.での経験を踏まえ、さらに障害のイメージを変えたいという想いを胸にヘラルボニーへ入社。主に企業向けの研修プログラムの開発を担当し、その責任者を務める。