MY ISSUE / 001

ヘラルボニーという
国籍があった

朴里奈 ブランドプロデューサー

1991年、日本生まれ日本育ちの在日コリアン4世。新卒でBEAMSに入社し、宣伝部やグローバルアライアンス部など様々な部署を経験。2023年4月ヘラルボニーに入社。現在はリテール事業部でブランドプロデューサーを務める。

リテール事業部でブランドプロデューサーを務める朴里奈。彼女は新卒から一貫して9年間身を置いたファッション業界から、異業種であるヘラルボニーに飛び込んだ。在日コリアンとして生きるなかで抱えてきた葛藤や、前職であるBEAMSでの経験については「違いにリスペクトを」というnoteに詳しく記してある。

幼少期から、そのアイデンティティと向き合い続け、自らの居場所や輝ける場所を探してきた。ヘラルボニーに入社してから一年半が経過する今、彼女は「“ヘラルボニーという国籍”を得た」と現在の心境を語る。現在取り組んでいるチャレンジ、そしてへラルボニーによって実現したい社会について聞いた。

作家から、憧れられる作家へ

へラルボニーにおける仕事内容やミッションを教えてください。

朴:ブランドと企業とのコラボレーションを通じて新しい価値を創出し、リテール部門全体を飛躍的に発展させていくこと。これが私のミッションです。自社ブランドの販売の延長に留まらず、リテール部門を強力に支える新たな事業をゼロから創りあげることに取り組んでいます。

私はこれまでファッション業界でキャリアを歩んできたため、福祉には携わったことがありませんでした。それでも、両代表からは「とにかく自由に大胆に、朴さんのやりたいことをやってください」という言葉をいただき、それに応えようと日々全国を駆け回っています。

現在取り組んでいる、企業とのプロジェクトについて教えてください。

朴:先日、京都宇治の窯元である朝日焼十六世・松林豊斎さんと、ヘラルボニーの異彩作家さんとのコラボレーションで茶道具をつくりました。このリリースの前、プレとして茶道具をとある茶会で販売したんです。すると、ごくごく自然な流れのなか、参加者のみなさんがとても気に入ってくださり、作品が次々に売れていくのを目の当たりにしたんです。

その時、プロダクトの可能性を強く感じたのと同時に、作家同士のコラボレーションを増やし、「一流の作家が、組みたくなる作家」といった認知を獲得していきたいと感じました。国内外の素晴らしい作家やアーティストから、へラルボニーの作家が評価され、さらには憧れられるような。そんな存在になる日もそう遠くないのではないか、とワクワクしています。

アートに衝撃を受け、
ファッション業界から転身を決めた

ヘラルボニーにはどんなきっかけで入社することになったんですか。

朴:前職であるBEAMSには新卒から9年間在籍しました。「カルチャーショップ」として文化を生み出し、モノの背景や時代性を共有することで、多くの人々に新しい価値を提案する喜びを感じていました。次のステージでは、「社会との深いつながりを持ち、イメージ変容が求められる業界で、自らの手で社会を動かす実感を得たい」「社会をより良くする意味のある仕事を通じて、身近な人たちを確実に幸せにしたい」。そんなことを考えていたんです。

ちょうどその頃、偶然出会ったのが、ヘラルボニーでした。そのときはまだ実際に生のアートを目にしたことはありませんでしたが、企業やブランドとしてのスタンスやビジネスの可能性に、どんどん引き込まれていきましたね。選考を受けている最中にも関わらず、京都市ふしみ学園のアート班「アトリエやっほぅ!!」という施設へ見学に行かせてもらったんです。

実際に初めて作品を目にして、どんな印象を抱きましたか。

朴:衝撃を受けましたね。異彩作家が生み出す圧倒的でクレイジーな作品の虜になりました。作家さんや施設のみなさんと会話を重ねるにつれ、まるで自分がヘラルボニーに入ったかのような感覚になるくらい作品に没入していて。「ここで働くんだな」って、未来を自然に想像できました。

あと自分自身、福祉や障害との関わりはありませんでしたが、在日コリアンとしてのマイノリティ性や、どこか偏見を持たれやすい存在として妙に重なったんです。作家が描く作品から、力強さを感じて、アイデンティティに蓋をしていた自分が恥ずかしくなりました。「在日だから…ヘイトの対象だから…」など、「だから、だから」とネガティブな言い訳に囚われていたなと。過去に抱いていたさまざまな負の感情を「ヘラルボニーでなら、ポジティブに発散できるかもしれない」と思ったんです。

異彩作家が憧れられ、
尊敬される社会を実現したい

入社から一年半が経過し、今ヘラルボニーに抱いている思いを教えてください。

朴:ヘラルボニーにはアットホームな雰囲気が流れつつ、それこそ福祉や障害に限らず、政治や人権など社会性の強いテーマも正面から話すことができる仲間たちがいます。表現が難しいのですが、“ヘラルボニーという国籍”をようやく得た気持ちすらあります。

私は過去に、周囲とうまくつながることができず、自分の居場所を見つけられないと感じていた時期がありました。さまざまなコミュニティのなかで過ごしながらも、どこか孤独を感じていたんです。幼少の頃には、ネットでは在日コリアンに関するネガティブなニュースが目立っていたことも影響していたと思います。

そうした環境のなか、同じ境遇の人たちと一緒にいることで、少しでも安心して過ごせると感じていました。その一方で、「このままで本当にいいのか」「なぜもっと堂々と生きられないのか」と、同じ場所に留まり続けるだけでは何も変わらないこともわかっていたんです。

今でも偏見はゼロではないですが、昔に比べると大きく変わりましたよね。特にK-POPブームが到来したことで、世の中が持つ韓国や在日韓国人・朝鮮人へのイメージがポジティブに変化していきました。その大きな潮目を見てきたからこそ、同じように福祉や障害も一大ムーブメントを起こせるんじゃないかと思うんです。SDGsをはじめ、時代の流れも追い風になっていると思いますが、人々の会話やSNSを通じて、福祉や障害という話題が堂々と議論されるようになってきました。これは大きな進歩だと思うんです。

最後に、へラルボニーで果たしたい目標を教えてください。

朴:異彩作家のアートが街の風景として自然に広がるだけでなく、アートとしての真価が認められ、人々に深く愛される社会を築きたいです。アートが持つ力が、人々の心に響き、異彩作家が憧れと尊敬の対象となる社会を実現したい。そうした社会こそが、世の中から偏見、差別、孤立などの不必要な痛みを取り除き、人々の心に真の豊かさをもたらすと信じてます。

朴里奈 ブランドプロデューサー

1991年、日本生まれ日本育ちの在日コリアン4世。新卒でBEAMSに入社し、宣伝部やグローバルアライアンス部など様々な部署を経験。2023年4月ヘラルボニーに入社。現在はリテール事業部でブランドプロデューサーを務める。

MY ISSUE

へラルボニーのメンバーは、多様なイシューを持ち日々の仕事に向き合っています。一人ひとりの原体験や意志は、社会を前進させるポジティブな原動力に変わります。